NPO法人江戸川手話通訳者協会会報誌『通研江戸公』第8号掲載

NPO法人化
 

 現在、私たちの協会では、NPO法人を都庁に申請している。このペースでいけば、夏に発行予定の次号あたりで、この会報誌の発行元が「江戸川区登録手話通訳者協会」ではなく、「NPO法人 江戸川手話通訳者協会」となる。
 法人化の必要性が協会内で議論されるようになったのは、一昨年頃からだ。一昨年の段階では時期尚早ということで断念したが、昨年度、協会内にNPO法人準備委員会を設置し、外部講師を招いての学習会、会員へのアンケート、数回にわたる話し合いを重ね、昨年10月に臨時総会を開き、協会の法人化が決定され、今年1月に都庁に申請した。
 先日、東京浜松町で開かれた第2回日本手話通訳士研究大会の報告で、長野支部の法人化の理由が「これからはNPOよ!」とあったが、全く同じ理由がきっかけとなっていたのには驚いた。長野支部は法人化はまだで、法人化したらどうなるか?というシュミレーションの報告だったのだが、昨年度、私たちの協会が準備してきた歩みを振り返る思いで拝見させてもらうことができた。 
 
さて、法人格というのは、そんなに必要なのだろうかと思われるかもしれないが、以前、日本手話通訳士協会が政見放送のことで自治省にお願いに行ったときに法人格でない団体に補助はできないと断られたことがあるそうだ。あの士協会が!である。結局は、士協会の実績から補助を受けることはできたそうなのだが、士協会ではそれに応えるためにも法人化を急務としているとのことだ。

 それにしても、法人格の取得を区・市レベルの通訳者団体で?と思われる方もいるかもしれない。おそらく、都内では初のケースになるだろう。世田谷区にしても、中野区にしても、ろう協と通訳者団体が一緒になって法人格を取得している。けれども区だからダメだとか、通訳者集団だけではダメだとかいう発想でいいのだろうかと問いたい。通訳士、都登録、区登録は縦の関係ではなく、それぞれが役割をもって並立をしている。だから、その区ごとに個性的な動きがあって構わないと思うわけだが、私たちは何か奇を衒ってNPO法人格を取得しようとおもったわけではない。通訳者の技術向上と、より一層の専門性を高めようと本気で思ったからこそ、任意団体のままではだめだと考えたのだ。

 ろう者が求める通訳場面は多種多様で、あるスキルを身につけるために通う学校での講義だったり、毎週開かれる社内会議だったりして、そういった場面での通訳を必要としていうるろう者は少なくない。ところが、現在の区の手話通訳者派遣では個人活動のために通訳を継続的に利用することは認めれていない。区の通訳者派遣は、派遣範囲に制限があって、病院や、学校の保護者会など個人の生活権を保障する最低ラインなのだ。

 ろう者からのニーズはあるのに、区派遣だけではそれに応えられないというジレンマがある(だからといって区派遣の範囲をむやみに拡大すればいいのかといえば、問題はそう単純ではない)。そこで、区派遣の範囲外のものであっても社会参加の平等という観点から通訳者派遣が相応しいと判断したケースに限り、私たちの協会から通訳者を派遣するようになった。

 区派遣範囲外の通訳依頼がそんなにあるのかと思われるかもしれないが、昨年度は91件あった。 通訳者の謝金は、依頼者の個人負担にならないように、大学側や、会社側と事前に交渉をし、公費で支払っていただくようになったケースがほとんどで、通訳謝礼として受け取った金額は合計で585,410円になる(平成15年3月〜平成16年2月)。

 派遣範囲の解釈については微妙なラインもあるので、そういうものについては区派遣のコーディネーターに問い合わせるようにしている。区派遣のコーディネーターが前任者から通訳者研修会に参加するようになり、そのお陰で、通訳者団体との距離が縮まった。私たちの協会のコーディネーターは、常に区派遣のコーディネーターと連絡を取り合っており、こういった関係を築いてきたこともあって、私たちの協会の法人化を区のほうも快く思っていただいている。

 法人格取得後の主たる事業は、手話通訳者派遣になるわけだが、しかし、それが区派遣に代わるものになるとは考えていない。区の派遣事業と通訳者協会での経件授業の両方が必要だと考えている。病気、生命に関わること、学校への保護者会、就職面接など今まで区の派遣として認められてきた分野は、行政の責任として、これからも区派遣であることが望ましい。

 一方で、区派遣範囲のワクを越えた通訳派遣が91件あることを述べた通り、ろう者の通訳場面に対するニーズは行政の責任として行なわれる区派遣の範囲に留まらない。それだけ様々な分野で、ろう者の活躍があるということだが、私たち江戸川手話通訳者協会は、それに応えるための手話通訳者派遣事業を行なっていきたい。

 これから、さらにろう者が様々な分野で活躍するに従って、手話通訳が必要となる場面はどんどん広がっていくだろう。大学などの高等教育機関や、専門機関で教育を受けた人がさらに研究者としての道を歩むなら、その人のための専属の手話通訳者が必要になってくるだろうし、一般企業で、ろう者が社内の中心人物として活躍するようになり、社内ミーティングなどの場に継続的に手話通訳が必要になってくるというケースも十分に考えられる。実際に、そのようなケースになってから、区派遣では認められないからといって断るのか、通訳者集団で引き受けれる体制を整えておくのか、と考えるなら、後者と答えるのは当然だろう。

 私たちの協会は、一昨年から、任意団体であるのにもかかわらず、大学や、企業などから通訳依頼が寄せられ、派遣を行なってきた。そうした実績が会員にも法人化への自信を持たせたし、信頼を寄せて依頼をしてくださった方々に応えるためにも法人格取得は今しかないと考えたのである。

 今後、法人格を取得した通訳者団体として、高等教育機関や、企業側との間に信頼ある関係を築きながら、手話通訳を介して、様々な分野で活躍してくれるろう者がたくさん進出することを願ってやまない。


以下のタイトルは本書にてお楽しみください。

・手話講習会
・オレンジデイズ