NPO法人江戸川手話通訳者協会会報誌『通研江戸公』第28号掲載

手話通訳者に求められるもの

 手話通訳の技術には、手話―日本語間の言語を訳す技術と、対人援助技術の2つの面があります。手話通訳と言えば、講演会などで壇上に立って手を動かしているイメージが強いと思われますが、実は、個人を対象とする通訳場面が多くあります。病院や、就職面接、企業の研修などで一人の聞こえない人に同行して手話通訳することがよくあるのです。そのときは、講演会のように不特定多数ではなく、個人が対象となるので、対人援助労働となります。

 対人援助労働においては、依頼者との信頼関係を構築することがまず大事です。この信頼関係を構築する上で、とても参考になるのが『バイステックの7原則』と呼ばれるケースワークにおける技術です。これは、アメリカのケースワーカーで、社会福祉学者のフェリックス・P・バイステックの概念で、最も基本的なケースワーカーの姿勢として広く認識されています。

 その内容は、利用者に対して援助者がどのような姿勢で接するべきかという7つの原則を示したもので、@個別化A意識的な感情表出 B統制された情緒関与 C受容 D非審判的態度 E自己決定 F秘密保持の7つになります。

 「個別化」とは、利用者を○○のケースとしてでなく、それぞれの生活体験、それぞれの性格を持つ一人の人間として捉え、その個人に合わせてアプローチすること。似たようなものであっても、人それぞれの問題であり、同じケースは存在しないからです。手話通訳者はともすると、対象となる個人を見ないで、ろう者、中途失聴者、難聴者とカテゴライズして手話通訳しがちです。中途失聴者には日本語対応手話の通訳だと決めつけて、その個人が本当に望んでいるコミュニケーション手段を見ていないことはないでしょうか。もちろん、その個人の生育環境などを手がかりにしながら通訳をしていくのですが、このケースにはこのパターンというものはなく、対象者個人に合わせた適切な手段で通訳することが大切です。

 「意識的な感情表出」とは、利用者が自己の感情を自由に気兼ねなく表出できるように意図的に援助者が関わること。手話通訳の現場で、例えば…


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