NPO法人江戸川手話通訳者協会会報誌『通研江戸公』第23号掲載
手話通訳者のサービス

今年の4月から、江戸川区の手話通訳者派遣事業は民間委託となりました。他の区市では、東京手話通訳者等派遣センターと契約を結んでいるところがほとんどのようですが、江戸川区では区内にある2つの事業所(ろう協と当協会)と契約を結びました。
それまで区が担ってきた手話通訳事業が民間委託されたことによって、利用者に対して、より良いサービスを提供していくことが私たち事業所には求められています。実際に、区役所では今まで対応できなかったことが今年の4月からはできるようになりました。例えば、メールによる通訳依頼ができるようになったことや、土曜日のFAX対応などがそうです。それまで区では提供しきれなかったことが民間委託によって可能となったのです。利用者に対して、より良いサービスを提供していくことが私たちの使命と考えているわけですが、そのサービスは単に依頼の方法が便利になったというだけではなく、ソフトの面でも満足してもらえるようなサービスを利用者に提供していきたいと思っています。ソフトの面というのは具体的にどういうことでしょうか。「あの通訳者に来てもらって良かったなぁ」と利用者に満足してもらえることです。

では、どうしたら、そのように思ってもらえるでしょうか。手話通訳の技術が上手いというのも一つですが、手話通訳さえ上手ければ満足してもらえるということではないでしょう。なぜなら、手話通訳とは人と人との関わりだからです。人と人との関わりということは、単に通訳技術が上手ければいいということではないはずです。もちろん、技術が疎かになっても構わないということではありません。確かな通訳技術があって、さらにプラスアルファが求められるということです。
そのプラスアルファとは何でしょう。誤解されがちなのは、利用者のニーズを何も考えずに何でも応えてしまうということです。よく、「手話通訳者は、ろう者のためにある」と言われたりしますが、それは、ろう者の代わりになって何かをするということではありません。通訳者は利用者の耳の代わりをするのであって、利用者自身ができることを通訳者がサービスだと思って代わりにやってあげることではありません。

また、通訳者が利用者よりも優位に立って、何かを強く促すのもしてはいけないことです。通訳現場での主体は誰か。それは言うまでもなく、利用者である聴覚障がい者です。通訳者は利用者のニーズに合わせた情報提供などをしたりする場合もありますが、利用者の自己決定権を奪うような行動は慎まなければいけません。
「ろう者のために」と思って提供したつもりでも、本当にそうなっているのかどうか。常に、通訳現場での自分自身の行動を振り返っていきましょう。

区在住の聴覚障がい者が2つの事業所から、どちらかを選んで手話通訳を依頼することになったということは、利用者自身も手話通訳サービスの質を見極める成熟さが求められるようになったのだと思います。利用者自身が何を基準に事業所を選ぶかは個々人で異なるかもしれません。でも、成熟した利用者ならば、利用者自身が主体的に物事を選んだり、決定したりすることができるための情報保障を求めることでしょう。
私たち手話通訳者も利用者のニーズに応えるべく成熟した通訳者となり、利用者である聴覚障がい者の自立援助となるサービスを提供していくよう心掛けていきましょう。


続きは本誌にてお楽しみください。

・アトムとの思い出
・日本人の知らない日本語