NPO法人江戸川手話通訳者協会会報誌『通研江戸公』第21号掲載

新しい手話通訳者像


区や市で実施をしている手話通訳者派遣事業は病院での診察や、保護者会、授業参観、講演会、就職面接など、日常生活において必要最低限の分野でのみ認められている。だが、本来は、聴覚障がい者がどこに行っても情報保障される環境が整備されていくべきだ。
区派遣適用外となっている分野には大学での講義や、カルチャースクールなど有料の講座、会社内の研修や会議などがある。これらは個人の利益追求につながるので、税金を財源とする区や市が実施する事業では手話通訳者の派遣が認められない。ところが、これらの分野は、そのスキルを身に付けることによって、個人の利益というか、その人の世界が広がり、職業選択の幅が広がるものなのだ。こういう分野にこそ情報保障をしていくべきだと思う。

その信念のもと、私たちNPO江戸川手話通訳者協会は5年ほど前から、区派遣適用外となった分野においての手話通訳者派遣を実施している。最初の年は88件の依頼があり、社会的な信用を得るために2003年にNPO法人格を取得した。企業や、大学の講義にも手話通訳者を派遣してほしいという要望は区在住の聴覚障がい者だけでなく、区外の聴覚障がい者からも多くあり、昨年度は147件の通訳派遣を行なった。

個人だけでなく、企業や非営利団体からの通訳依頼もある。今年で4回目となるユニバーサルキャンプへの手話通訳者派遣は毎年行ない、また、日本ろうあバレーボール協会と専属契約を結び、当協会から手話通訳者を派遣している。先日 アルゼンチンで開催されたデフバレー世界選手権では、男子チームは銅メダルを獲得したが、当協会から派遣している専属手話通訳者もスタッフとして銅メダルを授与された。来年、台湾で開催されるデフリンピックにも男子バレーボールチーム専属手話通訳者として当協会のメンバーが同行する。

企業からの依頼で社員研修や、会議などにも通訳派遣をすることがあるが、この場合、手話通訳料は、聴覚障がい者個人ではなく、企業に負担してもらうよう交渉し、実際、そのようになっている。これは、企業の社会的責任として当然のことだが、それでも、「聴覚障がい者を雇った以上、面倒を見ていかないといけない」という思いが企業側にあることは否めない。だが、そうではなく、雇用した聴覚障がい者が優秀な人材だから、彼からのアイディアを引き出したいので手話通訳者を依頼したいというように企業側の姿勢が変わってきたらと願う。会議で話し合われている内容を聴覚障がい者に伝達するための情報保障ではなく、手話の分からない人が聴覚障がい者のデザイナーなり、技術者から、そのアイディアを提供してもらうための情報保障である。そこでは、聴覚障がい者は「サポートする対象」ではなく、「共に仕事をする人材」として存在する。

聴覚障がい者が社会のあらゆる場面に進出しようとするとき、手話通訳の必要な場面が増えてくるはず。私たちは、そのニーズに応えていけるために、日々、通訳技術を研鑚しながら活動を続けている。


続きは本書にてお楽しみください。