NPO法人江戸川手話通訳者協会会報誌『通研江戸公』第13号掲載

ろう文化と聴文化

 江戸川区の手話講習会上級クラスでは、受講生による研究発表の準備が行なわれている。「ろう文化と聴文化」というテーマで、両者の相違について調査し、グループごとに発表をしてもらうことになっている。一般的にも手話は言語であるということについては、だいぶ認知されてきたと思うが、ろう文化については現役の手話通訳者の間でさえも、まだまだ理解が十分とは言えない現状がある。
 
 もう十数年前であるが、ろう文化に否定的なある手話通訳者が「人前でおならするのが、ろう文化なんだってさ」と侮辱するような口調で教えてくれたことがあった。
その当時、石神井ろう学校を卒業して、ある企業に就職したばかりの友人から「職場では気軽におならできないから困るよ」と聞いていた私にとってみれば、人前で、おならすることが、ろう文化だとしても、わざわざ取り沙汰することのものでもなかった。もちろん、全てのろう者が人前で、おならをするものだとは思わない。そうかと言って、石神井ろう学校だけの現象というわけでもないだろう。ポイントは、「人前」というのは「ろう者同士」という前提があることだろう。その友人の彼が言うには、ろう学校では、ニオイはともかく、音が聞こえないので誰がしたのか分からないから、平気でおならができたそうだ。これは、ろう者同士が「音のない世界」というものを共有できているからこそ成りえたことで、そういう意味では、文化と言えるのではないだろうか。
 
 音のない世界に生きるろう者と、音のある世界に生きる聴者との価値観や感覚の違いをユーモラスに描いた手話ビデオ『デフ・ジョーク』(出演・米内山明宏氏/井崎哲也氏)でも、おならをテーマにしたジョークが紹介されている。
 
 ちなみに、混雑する車内でプ〜ンとニオイが立ち込めたとき、我先にと周囲の顔を迷惑そうに見るのは聴文化なのだろうか。


以下のタイトルは本書にてお楽しみください。

・音のない世界へ足を踏み入れる
・受け入れられた?
・手話は顔が命
・因数分解を手話では?
・新しい手話
・過去から学ばなければ